2025/6/29

自己導尿 ~排尿にお困りの方が自分で尿を出すためのカテーテル交換法~

いわさ泌尿器科クリニックです。

排尿にお困りの方が、ご自身の手で安全に尿を出すための方法として、「自己導尿」という医療的な処置があります。これは、細いカテーテル(管)を一時的に尿道へ挿入し、膀胱内にたまった尿を排出する方法です。疾患やけがなどにより自然な排尿が困難な場合に、膀胱内の尿を出す手段として行われます。

自己導尿を正しく行うことで、腎臓への負担を軽減し、感染を防ぐ効果が期待できるだけでなく、日常生活を安心して過ごすための大切な手段にもなります。
本日は、自己導尿について、ご説明させていただきます。

これから自己導尿を始める方、ご自身での導尿に不安を感じている方、ご家族の介助をされている方に向けて、情報をお届けいたします。

自己導尿とは~

自己導尿とは、排尿障害などにより自力で尿を出すことが難しい場合に、ご自身で尿道から膀胱へカテーテル(細い管)を挿入し、たまった尿を体外に排出する方法です。

自己導尿の代表的な方法として「間欠的自己導尿(CIC: Clean Intermittent Catheterization)」があります。これは、1日に数回、膀胱容量が500mLを超えないように、一定間隔で導尿を行います。導尿時以外はカテーテルを体内に留置せず、使用後に取り外すのが特徴です。患者様の生活パターンや排尿状態に応じて、医師や看護師が適切な頻度や方法を判断します。

これらの方法は、常時カテーテルを留置する「バルーンカテーテル(持続導尿)」とは異なり、膀胱に尿をためて排出するという本来の機能をできるだけ保ちながら、排尿を補助することを目的としています。

自己導尿は患者様ご自身で行えるため、生活の自由度が高まり、尿路感染症のリスクも抑えられるなど、多くのメリットがあります。ただし、安全かつ清潔に行うためには、医師や看護師の指導のもとで正しい手技を身につけ、継続することが重要です。

排尿のしくみと障害~

通常、膀胱に尿がたまると自然に尿意を感じ、脳からの指令によって尿道が開き、スムーズに尿が排出されます。しかし、この排尿のしくみ(排尿機能)のどこかに障害が生じると、尿をうまく出すことができない「排尿障害」が起こります。排尿障害は、以下の2つのタイプに大きく分けられます。

~尿をうまく外に出せなくなる要因

  • 尿を出す力が弱くなるケース(排出障害

    神経の異常や加齢、特定の疾患により、膀胱の筋肉(排尿筋)の収縮がうまくいかなくなると、尿を排出する力が弱まり、排尿が困難になります。具体的な要因として、以下のようなものが挙げられます。

    • 脊髄損傷や多発性硬化症、パーキンソン病などの神経疾患
    • 糖尿病による末梢神経障害
    • 高齢による膀胱機能の低下
    • 骨盤内の手術や放射線治療の影響
    • 外傷性脊髄損傷:排尿をコントロールする神経が損傷を受け、自己導尿による排尿管理が必要になることがあります。
    • 骨盤内手術後(直腸がん・子宮がんなど):膀胱を支配する神経が手術によって傷つき、特に神経の合併切除を行った場合には、排尿障害が必発となります。
    • 低活動膀胱・膀胱機能低下:膀胱の収縮力や尿意の感覚が低下し、残尿が慢性的に残る状態です。糖尿病、神経疾患、頚椎症、前立腺肥大症、膠原病などが原因となることがあり、加齢によっても生じます。原因不明の場合もあります。
  • 尿道が狭くなるケース(閉塞性障害)

    尿の通り道である尿道が物理的に圧迫されたり、狭くなったりすることで、排尿が困難になります。

    • 前立腺肥大症(男性)
    • 尿道狭窄(外傷、手術後の瘢痕、炎症など)
    • 骨盤内腫瘍や、婦人科系疾患による圧迫(女性)

これらの障害があると、「残尿」や「排尿困難」、「頻尿」「尿閉(尿がまったく出なくなる状態)」といった症状が見られるようになります。
排尿障害を放置すると、膀胱に尿が過度にたまることで腎臓へ尿が逆流し、腎盂腎炎や水腎症などの合併症を引き起こすことがあります。そのため、早期に適切な診断と対応を行うことが重要です。

~自己導尿が必要とされる状態~

上述した排尿障害のなかでも、以下のような状態の場合は、自己導尿が必要と判断されます。

  • 尿がまったく出ない「尿閉」の状態

    排尿がまったくできない「尿閉」は、緊急性のある排尿障害です。尿が膀胱内にたまったまま排出されず、強い不快感や腹部の張りを伴う場合があります。このような状態では、速やかに導尿が必要となり、継続的な排尿管理として自己導尿が不可欠になります。

  • 残尿が常にある場合

    一見、排尿できているように見えても、膀胱内に尿が残っている「残尿」が慢性的にある場合も注意が必要です。尿の出が悪い場合や、頻尿・尿意切迫感などの症状が続いている方は、残尿の有無を評価し、自己導尿が必要かどうかを検査で調べる必要があります。

【検査】
超音波検査(膀胱内残尿測定)により、排尿後の膀胱内にどれくらい尿が残っているかを確認します。その結果、排尿後に200mL以上の尿が常に残っている場合には、感染予防や腎機能保護の観点から、自己導尿の導入が推奨されます。

■注意点|「自覚症状がない」ことも多い
膀胱に200mL以上の尿が残っていても、尿意や違和感を覚えず無症状という場合が多くてやっかいです。これは、膀胱の知覚が低下しているために、尿がたまっている感覚そのものが鈍くなっているためです。頻尿尿漏れ繰り返す膀胱炎など、他の症状をきっかけに見つかるケースも少なくありません。腎臓への影響や感染のリスクが高まるため、残尿があるとわかったら、早期に正確な検査を受け、必要に応じた管理を始めることが重要です。

~まとめ~

自己導尿は、排尿に問題を抱える方が安全に尿を排出するための、有効な方法です。腎機能の保護や感染予防といった医療的なメリットだけでなく、患者様ご本人の生活の質を保つうえでも大切な手段となります。

「尿を出したつもりでも、実は残っていた」というケースも少なくありません。尿意がないからといって、膀胱に尿が残っていないとは限らないため、自覚症状の有無にかかわらず、気になる症状がある方は一度医療機関での検査を受けてみることをおすすめします。気になる症状やお悩みがある方は、どうぞお気軽にご相談ください。
次回は自己導尿の手順(基本の流れ)やカテーテル交換の方法について、より具体的にご紹介いたします。

※病気の症状等に関しては、下記のページをご確認ください。

膀胱炎
前立腺肥大
前立腺がん
頻尿
尿路結石
性感染症外来

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